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塞翁が馬

その日、友人は都内のある病院に入院していた。

前々日の土曜日、インドから帰国して降り立った成田空港で検疫に引っかかったのだ。

赤痢の陽性反応だった。

彼女はすぐさま他の乗客らから隔離され、防護服をまとったスタッフに囲まれて特別室へと促された。

幸い発症はまだほとんどしておらず、抗菌薬などの投薬治療を数日行えば大丈夫ということだった。

 

彼女は移動し連れてこられた隔離病棟の中から上司に連絡を入れて状況を説明し、数日間出勤できない旨を伝えた。

出勤できるのは、おそらく来週の後半になると思います、と。

 

病室は思っていたよりは普通の病室であった。

隔離病棟というと物々しく、無機質な感じを想像していたが、実際にはテレビもあり大きな窓もある(開かないが)明るい部屋だ。

そして何よりも、個室ではなく4人部屋であった。

彼女は、自分が想像していた部屋がICUだったことを可笑しく思い思わずクククと笑ってしまった。

 

しかしそれにしても、よりによってなぜ自分が赤痢なんかに。

なんだか自分が随分と運の悪い人間のように思えてならなかった。

自分が買ってきた土産物や何かはちゃんと返してもらえるんだろうか。

赤痢菌がついていて没収、焼却処分なんてことにならなければいいが。

そう思いながら、本来は今日月曜日は会社で職場の仲間に土産物を配るはずだったのにとちょっと残念に思っていた。

 

が、

 

午前9時過ぎ、テレビから流れてきたニュースの画面を見て彼女の血の気は引いた。

赤痢に感染していなければ彼女はその日の朝、地下鉄丸ノ内線に乗っているはずだった。

8時頃であれば、ちょうど御茶ノ水のあたりだろうか。

その御茶ノ水駅の様子がテレビには映っていた。

 

その日、1995年3月20日、地下鉄サリン事件は起きた。

 

 

 

今回のインフルエンザで隔離された人にも、不運だけではなく、何らかの幸いがあることを願って。

 

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